同定 |
♂. 前翅長9mm. 触角は黒褐色で単純. 頭部および胸部は暗褐色, 肩板は黄褐色.前翅は広く, 前縁は基部でふくらみ, 翅頂はとがる; 外縁はややふくらむ; 後縁は基部で突出する; costal fold はない; 前翅の地色は黄褐色で数本の黒褐色の横条が基部から放射状に走る; 前翅の外側は翅頂付近を除き黒褐色; 後縁は黒褐色条でふちどられる; 縁毛は暗褐色. 後翅は暗褐色で, 縁毛は淡色.
♂腹板. 第7背板は三角形で側面の辺はへこむ; 第8背板は細い帯状で, 中央がやや広がる. 第7腹板は三角形; 第8腹板は中央でややへこむ; コレマータは1対の骨化した袋状の構造で, 内部は特殊化した長い鱗片が密にある.
♂交尾器(Figs
5-6). Uncus はへら状で, 先端は円く, 中央はへこむ; socius は単純で tegunum の1/4に達する; gnathos の先端は強く骨化してくちばし状を呈する; tegumen は幅広く短い; transtilla は広く, 両側は広がり, 棟を欠く; juxta は大きく, ハート形; Valva は短く, 丸みを帯びるが先端は平たい; succulusはよく発達し, 細く,中間でやや内側に曲がった後, 先端は少し細くなる; vinculum は単純; aedeagus は中央で曲がり, 数本の針状のcornutiをもつ.
♀. 前翅長10mm. 頭部は暗褐色で, 肩板はにぶい橙色. 前翅はオスよりやや長く, 後縁の基部は突出しない; 地色はにぶい橙色で, 一本の黒褐色の横条が基部から翅の中央を走るが, 不明瞭なこともある; 逆に斑紋の発達した個体では, 翅の外側に放射状の短条をもつことがある;横脈点は明瞭; 後縁は黒褐色条でふちどられる; 縁毛は淡橙色. 後翅は暗灰褐色で縁毛は淡色.
♀交尾器. Paliplio analus は細く,中央でややへこみ, 先端は細まる; sterigma はカップ状で, ostium 周辺の側面は広がる; antrum はsterigma よりも短く, 発達する; bulla seminalis は大きく卵形; ductus seminalis は短く, ductus bursae の終点から分岐する; ductus bursae は短く, 直線的で,corpus bursae に向かって広まる; colliculum を欠く; corpus bursae は長卵形; Signum は細長く, 内側に短い爪状の突起を, 外側には大きなcapitulumをもつ.
本種は, Kuznetzov (2001)
により交尾器とともに雌雄の線画も図示した. 日本の個体はこれによく一致したので本種と同定した. 外観はタテスジハマキArchips pulcher およびその近縁種に類似するが, 銀灰色の帯を欠くことで区別できる. また, 中国から記載された Pandemis curvipenita Liu&Bai,1982にも似るが,
curvipenitaではuncus の先端がへこまないことで区別できる. なお, 本種がカラーで図示されるのは初めてである.
本種はKuznetzov (1976)によってArchips属として記載され,タテスジハマキ Archips pulcher に近縁とされてきた.しかしRazowski (1977)は本種が Archips に含まれない可能性を示唆し,その後Razowski (1993) によってコメントなしにPandemis に移された. Kuznetzov (2001) はこの扱いを支持している. 本種の斑紋は Pandemis 属の通常の斑紋パターンとは全く異なっているが,雌雄交尾器や雄腹板およびコレマータの形状は典型的な Pandemis 属のそれであり, 本種がPandemis 属に含まれることは明らかである.
本種がタテスジハマキと近縁とされた根拠としては, どちらの種も属の基本的な斑紋パターンとは異なる特異な斑紋パターンを持つことがあげられる. しかし, Pandemis
とArchips は系統的にも異なる単系統群に属し, 斑紋は各系統で並行的に進化したと推定されている. このような類似した斑紋パターンが見られるのがどちらも針葉樹性であることは興味深い. 類似した生活史の何らかの要因によって, 斑紋パターンが収斂進化した可能性がある (Jinbo, 2000).
本種はKuznetzov (2001)によって日本から初めて記録されたものと思われるが, 詳しい地名は示されていなかった.筆者が検した個体は本州および四国のもので, モミなどが混じる山地の混交林から亜高山針葉樹林にかけて採集されている. 成虫は7-9月に得られており, 灯火に飛来するが,検討できた多くの個体はメスであった. 幼生期については, 日本ではシラビソから1個体が飼育されている. 他にロシアから2種のマツ科植物が食餌植物として記録されている (Kuznetzov,1976). 採集地の環境から,日本においてもシラビソ以外のマツ科にもついている可能性が高い.
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